公務員試験の勉強、ぶっちゃけ今の仕事に役立ってる?元職員が語る「試験と実務」の絶望的なギャップと、それでも残ったもの

「分厚い参考書(スー過去)を何周したか覚えていない」
「模試の判定に一喜一憂して眠れない夜を過ごした」
公務員を目指したことがある人なら、誰もが通る道です。憲法、民法、行政法、ミクロ経済、マクロ経済、そして悪夢のような数的処理……。
あの頃の私は信じていました。「この苦しい勉強を乗り越えれば、公務員としての実務能力が身につくんだ!」と。
しかし、晴れて辞令を受け取り、配属先のデスクに座った瞬間、私は気づいてしまったのです。
「あれ? 試験勉強の知識、使う場面が全くないぞ……?」
今回は、元公務員であり、現在は愛知県新城市で土地家屋調査士として働く私、淵名(ふちな)が、「公務員試験の勉強と実務の絶望的なギャップ」そして「それでも勉強して良かったと思える本当の理由」について、赤裸々に語ります。
【1】「数的処理」のパズル王は、現場で無力だった
公務員試験の最重要科目といえば「数的処理」です。「A〜Eの5人が嘘をついている、犯人は誰か?」「旅人算」「確率」……。
私はこれらを解くために、何百時間も費やしました。思考のスピードを上げ、論理的に答えを導き出す訓練。これこそが事務能力の基礎だと思っていました。
実務で求められたのは「パズル」ではなく「Excel」
しかし、配属された現場で求められた能力は全く別物でした。
複雑な条件から、たった一つの正解を最速で導き出す「ひらめき」と「論理力」。
<役所のリアル>
前任者が作った謎のマクロが組まれたExcelを壊さないように入力する「慎重さ」と、1円のズレも見逃さない「執念」。
例えば、窓口で住民の方に行政サービスの複雑な計算を説明する際、「ここでは旅人算の考え方を使いまして…」なんて言おうものなら、火に油を注ぎます。
必要なのは論理パズルを解く頭脳ではなく、「分かりにくい制度を、おばあちゃんでも分かる言葉に翻訳する力」でした。
数的処理が得意だった同期が、電話対応でしどろもどろになっているのを見た時、「試験って何なんだろう」と遠い目になったのを覚えています。
【2】「憲法・法律」を唱えても、クレームは止まらない
「日本国憲法第25条、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する……」
暗記するほど繰り返した条文です。法学部出身でもない私が、必死に法律用語を詰め込みました。
現場は「法解釈」よりも「感情処理」の戦場
しかし、窓口の最前線に来るのは、六法全書を片手に議論を挑んでくる人ではありません。
「俺の話を聞け!」「税金泥棒!」と、生活の不安や怒りをぶつけてくる市民の方々です。
教科書には『判例』は載っていても、『怒っている人の話を聞く時の相槌の打ち方』や『保留にする時の間の取り方』は載っていなかったんですよね。」
役所の実務で最も使う法律は、憲法でも民法でもなく、その自治体独自の「条例」や「要綱」、そして何より最強なのが「前例」です。
「去年どうやったか」が全ての判断基準になる世界で、私の頭の中のミクロ経済学や政治学の知識は、静かにホコリを被っていきました。
【3】それでも「勉強して良かった」と断言できる3つの理由
ここまで読むと、「じゃあ公務員試験の勉強なんて意味がないのか?」と思われるかもしれません。
いいえ、違います。ここからが本題です。
公務員を辞めて、土地家屋調査士という「現場のプロ」になった今だからこそ分かる、「あの勉強の本当の価値」があります。
理由1:嫌なことから逃げない「精神的耐久力」
公務員試験の科目は膨大です。興味のない科目、苦手な科目も避けては通れません。
「やりたくないけど、やらなきゃ受からない」という状況で、机に向かい続けた数千時間。この経験が、社会人としての基礎体力を作りました。
仕事も同じです。華やかな業務は1割で、残りの9割は地味で面倒な事務作業や調整業務。あの時培った「感情を無にして淡々とタスクを処理する能力」は、間違いなく試験勉強の賜物です。
理由2:お役所文書を読み解く「読解スキル」
現代文や英文読解の勉強は、意外な形で役立ちました。
行政の文書、国からの通知、法律の条文……これらは独特の言い回し(霞ヶ関文学とも呼ばれます)で書かれており、一般の人には解読不能です。
「〜することができる(裁量がある)」「〜するものとする(義務に近い)」
こうした言葉のニュアンスを正確に読み取り、行間にある意図を汲み取る力。これは試験勉強で論理的な文章を読み続けたおかげで身についたスキルです。
土地家屋調査士になった今も、法務局の古い資料を読み解く際にこの力が生きています。
理由3:「リーガルマインド(法的思考)」の種まき
ここが一番重要です。
具体的な条文は忘れても、「物事を法的に整理して考える思考回路」は残ります。
- なぜこのルールがあるのか?(趣旨への遡及)
- 原則はどうで、例外は何か?
- 公平性の観点から正しいか?
この思考法は、役所内での調整だけでなく、今の私の仕事である「境界確定」でも不可欠です。隣人同士の揉め事を解決する際、感情論ではなく「権利関係」を整理して着地点を見つける。その土台は、紛れもなくあの受験時代に作られたものでした。
【4】結論:試験勉強は「入場券」だが、無駄ではない
公務員試験は、ある種のリトマス試験紙なのかもしれません。
「理不尽で膨大な課題を与えられた時、投げ出さずに努力できる人間かどうか」を測っているのです。
今勉強している「数的処理」も「経済原論」も、そのまま実務で使うことはほぼありません。
でも、安心してください。その知識を頭に詰め込む過程で鍛えられた「忍耐力」「情報処理能力」「法的センス」は、あなたがどの部署に行っても、あるいは私のように役所を辞めて別の道に進んでも、必ずあなたを助ける武器になります。
だから、今の苦しみは決して無駄にはなりません。まずはその膨大な参考書を信じて、最後まで走り抜けてください。
そして、もし将来、役所の仕事で「土地の境界」や「登記」の壁にぶつかった時は……その時は、元先輩である私、土地家屋調査士の淵名を頼ってくださいね(笑)。
元公務員だからこそ、役所の事情も分かります
「役所からこんな通知が来たけど意味が分からない」
「道路の払い下げや寄付の相談をしたい」
役所の言葉と市民の言葉、両方の通訳ができるのが私の強みです。
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