もし現役時代に副業ができたら?元公務員が語る副業解禁の本音

2026年現在、日本の労働環境は大きな転換期を迎えています。その動きは、かつて「堅実」「副業厳禁」の代名詞だった地方公務員の世界にも、確実に広がりつつあります。
近年、地域貢献や職員のスキルアップ、組織の活性化などを目的に、条件付きで地方公務員の「副業・兼業」を認める自治体が全国的に増えてきました。メディアでも取り上げられる機会が多くなり、現役の職員だけでなく、広く社会的な関心を集めるテーマになっています。
しかし、実際のところ、この「副業解禁」という変化は現場の職員や組織にどのような影響をもたらすのでしょうか。
私は、平成23年4月に地方自治体に入庁し、令和4年3月までの約11年間、公務員として勤務した経験があります。現在は独立し、行政書士・土地家屋調査士として活動していますが、元公務員という当事者の視点からこのニュースを見たとき、深い感慨とともに、ある種の羨ましさを覚えずにはいられません。
この記事では、私が現役時代に抱いていたリアルな思いを振り返りつつ、「もし当時、副業ができていたら人生はどう変わっていたか」という具体的なシミュレーション、そして元公務員だからこそ見える副業解禁のメリットと、どうしても拭えない現実的な課題について詳しく考察します。
1. 平成23年入庁、令和4年退職。私が現役だった頃のリアルな思い
私が地方公務員としての第一歩を踏み出したのは、東日本大震災が発生した直後である平成23年(2011年)の4月でした。当時の社会情勢は非常に不安定で、民間企業の採用縮小や景気の低迷が続く中、公務員という職業は安定の象徴であり、多くの若者が目指す非常に狭き門でした。
入庁した当時の役所の空気感は、今振り返ってもかなり保守的なものでした。地方公務員法に定められた「職務専念義務」や「営利企業従事制限」は絶対的なルールであり、「公務員が給与以外の収入を得る=重大な規律違反」という認識が組織の隅々まで行き渡っていました。副業という言葉自体、日常の業務の中で口にすることすら憚られるような、完全に閉ざされた世界だったのです。
日々の業務に邁進し、地域住民の方々のために働くことには大きなやりがいを感じていました。しかし、勤務年数が5年、10年と経ち、中堅と呼ばれる立場に近づくにつれて、心の中に少しずつ閉塞感や不安が芽生え始めたのも事実です。
【現役時代に感じていた不安や焦り】
- キャリアの選択肢が「役所の中」にしかないことへの焦り
- どれだけ法律や行政実務に詳しくなっても、それが「一歩役所の外に出たときに民間社会で通用するのか」という強い不安
- 定年までこの組織のルールと人事異動に人生を委ね続けることに対する、漠然とした疑問
公務員の世界は、数年おきに全く異なる部署への人事異動があります。福祉、税務、土木、総務……。そのたびに一から業務を覚え直し、ジェネラリストとしての能力は鍛えられますが、自分だけの強みとなる専門性を確立することは容易ではありませんでした。
「このままでいいのだろうか」という思いが強くなった結果、私は自らの足で新しいキャリアを切り拓くべく、国家資格の勉強を始め、最終的に令和4年(2022年)の3月をもって、11年間勤めた役所を退職するという決断を下しました。当時の選択に後悔はありませんが、もしあの時代に副業という選択肢が少しでも存在していたら、私の歩む道は大きく違っていたに違いないのです。
2. もしあの頃、副業が認められていたら……人生の選択肢はどう変わったか
私が現役時代、公務員としての本職を全うしながら取り組んでいたのが、「土地家屋調査士」や「行政書士」の資格試験勉強でした。
当然ですが、当時は完全な副業禁止です。平日は朝から夕方まで役所の業務をこなし、帰宅後や休日の限られた時間をすべて受験勉強につぎ込むという、精神的にも肉体的にもハードな日々を送っていました。机の上でテキストを開き、過去問を解き、複雑な法律の条文や登記の理論を頭に叩き込む日々。しかし、どれだけ勉強しても、常に付きまとっていたのは「実務を一度も経験したことがない」というもどかしさでした。
法律の勉強をされたことがある方なら共感していただけると思いますが、机の上の知識と、実際の現場で動く実務の間には大きなギャップがあります。もし、私が現役だったあの頃に、現代のような「副業・兼業解禁」の制度が存在していたら、私の人生や独立へのプロセスはどのように変わっていたでしょうか。具体的に考えてみます。
🔮 現役時代の「資格勉強×副業実務」のシミュレーション
① 知識の吸収スピードが格段に上がっていた
もし週末だけでも、行政書士事務所や土地家屋調査士事務所で補助者として「実際の書類作成」や「現地の測量、境界確認の手続き」を副業として手伝うことができていたら。テキストの文字でしかなかった条文が、一瞬で「生きた実務」として脳に定着したはずです。実務を並行して学べる環境があれば、試験の合格時期はもっと早まっていたかもしれません。
② 退職・独立に伴う「不安」が大幅に軽減されていた
安定した公務員の身分を捨てる際、最も大きいのは「本当に食べていけるのか」という経済的なリスクと不安です。もし副業を通じて、事前に実務の流れを掴み、業界の先輩方とのつながりを少しでも築けていたら、独立のハードルは驚くほど下がっていたでしょう。「これならいける」という確信を持って、よりスムーズに次のステップへ移行できたはずです。
③ 「退職のタイミング」を最適化できた
「実務経験ゼロでいきなり外の世界に飛び出す」という、ギャンブルのような退職をする必要はありません。副業で十分に力を蓄え、基盤を作ってから円満に退職するという、計画的かつ戦略的なキャリアチェンジが可能になっていたはずです。
このように振り返ると、当時「副業」という選択肢が一切なかったことは、個人のキャリア形成という観点においては、非常に大きな機会損失であったとも言えます。裏を返せば、2026年現在、条件付きとはいえ副業への扉が開かれている現役の公務員の方々は、自分の人生の可能性を広げるチャンスを得ているに等しいのです。
3. 元公務員が考える、副業解禁がもたらす「3つのメリット」
では、客観的に見て、公務員が副業・兼業を行うことにはどのような意義があるのでしょうか。私は単に「個人の小遣い稼ぎができる」といったレベルの話ではなく、職員個人、自治体、そして地域社会の三者にとって大きなメリットがあると考えています。特に重要となる3つのポイントを挙げます。
メリット①:自分に「合う・合わない」の選択肢を一歩引いて見極められる
公務員として長く働いていると、良くも悪くも「役所の常識が社会の常識」になってしまいがちです。組織の価値観に染まりきってしまい、毎日の仕事が苦痛であっても、「自分にはここを辞めて生きていくスキルなんてない」と思い込み、メンタルに不調をきたしてしまう職員を私は何人も見てきました。
副業という形で組織の外の世界に触れることは、自分の能力を客観的に試す絶好の機会になります。外の世界を経験することで、「自分の適性はどこにあるのか」「本当に今の公務員の仕事が自分に向いているのか、それとも外の世界の方が力を発揮できるのか」を、今の安定を捨てずに冷静に見極めることができます。「他にも生きる道がある」と知るだけで、本業に対する心のゆとりも全く変わってきます。
メリット②:公務員としての働き方や意識が変わる
副業を経験した職員は、間違いなく本業である役所業務のパフォーマンスも向上します。なぜなら、民間ビジネスの世界では「時間に対するコスト意識」や「徹底した効率化」「顧客(ユーザー)目線」が絶対条件だからです。
予算が税金によって担保され、倒産のリスクがない役所の中にいるだけでは、どうしても前例踏襲やスピード感の欠如が生まれやすくなります。しかし、副業で自ら汗を流し、1円を稼ぐことの大変さや民間のスピード感を肌で知った職員は、「どうすればもっとこの役所の窓口業務を効率化できるか」「どうすれば住民の満足度を上げられるか」を自発的に考えるようになります。副業で得た知見やスキルが、ダイレクトに本業の住民サービスへと還元される好循環が生まれるのです。
メリット③:現在進行形での「民間のリアルな視点」の獲得
多くの自治体では、民間企業への派遣研修を導入したり、中途採用で民間企業での職務経験を持った人を積極的に登用したりして、組織内に新しい風を吹き込もうとしています。これらは確かに素晴らしい試みです。
しかし、人から与えられた研修や、過去の経験として民間を知っていることと、「現在進行形で、公務員をやりながら自ら主体的に民間のビジネスに関わり続けていること」の間には、得られる情報の鮮度と深さに決定的な差があります。激変する現代の経済状況、地元企業のリアルな資金繰りの悩み、人手不足の現場の悲鳴。これらを副業を通じてリアルタイムに感じ取れる職員が役所に増えれば、自治体が打ち出す地域振興策や企業支援策は、机上の空論ではない、本当に効果的な政策へと進化するはずです。
4. 避けては通れない、副業解禁の「デメリットと懸念点」
ここまで副業解禁のメリットや可能性について語ってきましたが、元公務員としての冷静な視点に戻れば、「手放しで大賛成、今すぐ全面解禁すべきだ」と言い切れない複雑な裏事情があることもまた、痛いほどよく分かります。公務員の副業には、民間企業とは比較にならないほど厳格に管理されるべき、拭いきれないリスクが存在します。
⚠️ 地方公務員の副業推進においてクリアすべき「2つの壁」
① 情報漏洩(秘密保持)のリスク
役所の職員は、一般住民の資産情報、家族構成、健康状態、企業の機密情報など、極めて秘匿性の高い個人情報を大量に扱っています。副業として外部の企業で働いたり、個人でコンサルティング等を行ったりする際、悪意がなかったとしても、職務上知り得た内部情報やネットワークの知識が「うっかり漏洩してしまう」リスクは常にゼロではありません。一度でも大きな情報漏洩が起きれば、行政に対する信頼は一瞬で失墜します。
② 利益供与・公平性の担保の難しさ
公務員の最も重要な基盤は「職務の公平性」です。例えば、許認可権限を持つ部署の職員や、公共工事の発注に関わる部署 of 職員が、特定の民間企業から副業報酬(給与など)を得ていたとしたらどうでしょうか。たとえ本人が「公私の区別はつけている」と主張しても、周囲の住民や他の事業者からは「特定の業者に便宜を図っているのではないか」「利益供与があるのではないか」という疑念を抱かれるのは当然です。この「疑わしい関係性」を完全に排除するための制度設計は、極めて難易度が高いのが現状です。
さらに現場レベルのリアルな懸念を言えば、「本業の職務専念がおろそかにならないか」という問題もあります。副業に熱中するあまり、平日の本業中に寝不足でミスを連発したり、市民への対応が雑になったりしては本末転転です。「どこまでの職種を許可し、どのように管理・監視するのか」という運用のルール構築は、自治体の人事担当者にとって頭の痛い問題であり続けています。
5. まとめ:これからの公務員の生き方と、地域の未来
2026年現在進行形で進む地方公務員の副業・兼業解禁は、確かに情報漏洩や公平性の担保といった、公務員特有の重い課題を抱えています。これらは決して無視してよいものではなく、厳格なガイドラインと職員一人ひとりの高い倫理観によって、徹底的に管理されなければなりません。
しかし、それらのデメリットやリスクを考慮したとしても、「公務員が役所の外の世界を知り、民間の感覚を取り入れること」がもたらす社会的な価値は、リスクを遥かに上回ると私は確信しています。
時代は変わり、かつての「定年まで1つの役所にしがみつくことが正義」という単一的な価値観の時代は終わりを告げようとしています。これからの公務員に求められるのは、組織の内側に引きこもる安定ではなく、外の世界の状況やスピード感を肌で知り、それを地域の課題解決に還元できる「ハイブリッドな強さ」です。
かつて平成23年に閉ざされた空気の役所に入庁し、悩みながらも外の世界へ飛び出した一人の元公務員として、私はこの一連の副業解禁の流れを、非常に前向きで大きな可能性を孕んだ変化として捉えています。
🚀 新しい働き方に挑戦する現役の公務員の方々の選択肢が広がり、それがひいては地域の未来をより豊かにしていくことを、心から応援しています。
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